『漂流』 吉村昭

中学生の時に、映画化されたので昔から知ってはいた。

漂流してどこが面白いんだろう。程度だったか。

北大路欣也が、ヨレヨレで歩いている

映画のワンカットが思い出される。

 

「漂流 北大路欣也」の画像検索結果

 

 

爾来三十年。

感動する本との紹介で、購入。

 

 

 

 

 

 

 

破獄、冷たい夏暑い夏、法師蝉は読んだ覚えがあります。

 

吉村昭

 

生麦事件、上下巻を本棚に置きつつ、冒頭読むも、難しいので、

なかなか手が出ず。

 

漂流 (新潮文庫)
漂流
吉村昭
 

本書『漂流』は、非常に読みやすく、スラスラ読めます。

時代背景も難しくなく、登場人物も少ないし、状況設定もシンプル。

 

吉村昭最大の特徴である、

無慈悲なまでの冷徹な文章。

嫌なら読まんでいい!と言っているかのように

感情を排した表現。

 

好みが分かれるでしょう。

 

しかし、この『吉村昭さ』がないと、つまらない作品なんだと思う。

 

だって、漂流するだけじゃん!

 

淡々と

粛々と

 

読者に

 

 

読者の心に、突き刺さってきます。

 

 

20頁あまりの『序』の部分。

すでに、読者は『吉村昭さ』の術中にはまります。

 

何が起きるのか、どうなってるのか、いつなのか、どこなのか、

 

いま本を読んでいる自分を、

 

まさに、作品の時代へと導いてくれる『序』

 

素晴らしい。

 

ここだけで素晴らしい。

 

 

あとは、身を任せ、読みふけるのみ。

 

 

えーっ?本当に?・・・・・という部分がなくはない。

しかし、逆境に置かれた人間ならば、

不可能を可能にしてしまうことさえ可能なのだと

考えさせられる。

 

この便利な時代に生きた人間じゃダメだな。

 

『便利は人をダメにする』

 

本当だ。

 

 

 

『漂流』

 

 

吉村昭の傑作である。

 

 

 

 

死ぬまでに、吉村作品、いっぱい読みたいものだ。

 

 

 

 

2017.2.2                           続く

 

『一路』 上・下 浅田次郎

 
一路(上) (中公文庫)
一路(上)
浅田次郎
 
 

浅田次郎

 

素敵な出会いとなりました。

 

超!高速参勤交代のレビューで、一路を知り、即購入。

 

初作家ゆえ緊張して読み始めるも、文章の簡潔さや早めの展開が

 

非常に肌に合い、集中して読めました。

 

木曽路の与川越えのシーンでイメージがつかめず再読したりもしましたが

 

それもまた楽し。

 

参勤交代諸事情はあろうが、上下巻どう持たせるのかと勘ぐっていたら、

 

いやいや、どこにも悪者はいるもので下巻にの展開が楽しみでたまりません。

 

浅田次郎おすすめでググってもあまり一路は出番なし。

 

もっとすごいのいっぱいらしい。

 

浅田次郎恐るべし。

 

以上、上巻感想。

 

 

一路(下) (中公文庫)
一路(下)
浅田次郎
 
よくもまぁいろいろな事が起こるものだとは思うけれど、
 
よく考えれば、問題が起きないほうがおかしい。
 
しかも、生麦事件島津藩士がイギリス人を切り捨てて3ヶ月後のこと。
 
最後の老中の参勤交代に関する言葉はそのご時世を受けての言葉だったのか。
 
江戸近くになってから、黒幕との駆け引きが少し霞がかった
 
(もしくはページ足りなく書き急いだ?)描き方が気になった。
 
由比帯刀の無罪放免も疑問。
 
物語最後、老中と一路との会談で終わらずに、最後馬でまとめたし。
 
細かい点不満あるも、総じて楽しいお話でした。
 
浅田作品もう少し読んでみたいです。
 

以上、下巻感想。

 

 

総じて、

 

乙姫との関係にモヤモヤ感が残る。

 

許嫁の薫との関係は?

 

全体的でもいいので後日談が欲しかった。

 

蒔坂将監の最後があまりにもさっぱり。

 

伊東喜惣次の切腹で済ませてしまった感有り。

伊東喜惣次を生かしておくこともできたはず。

 

浅次郎のキャラが弱い。

 

馬に喋らせるなよ!(嫌いじゃないけどね)

 

しかも、小説の終わり、馬で締めるなよ。

 

小説としては、面白かったけど、ちょっと不満も残った。

 

 

 

 

生麦事件が、1862年9月

この小説の参勤交代は、1862年12月

時代設定が、いいのか悪いのか?

ちなみに、超高速!参勤交代は、1735年と130年前の設定。

 

 

 

 

 

 

 

続く                          2017.2.1

 

 

 

 

 

『不毛地帯』 第5巻 山崎豊子

残念なことに、全5巻

読み終わってしまいました。

 

 

不毛地帯 第5巻 (新潮文庫 や 5-44)

 

 

恩師シリーズ②

 

高校二年生の時の現代国語の高橋先生。

ヨーダを、少し大きくしたような感じの先生でした。

 

ある時授業で、トルストイドストエフスキーの話になり、

 

下北沢の三文役者のように、

いかにも、腰をかがめて、両の手をひろげて、

こうのたもうた。

 

『君たちは罪と罰を読んだことがないのか?』

 

 

挙手させたところ、名前は忘れたが、いかにも、

勉強はできるが、長髪で、おカマっぽいやつが、

手を挙げた。

 

そして、師のたまわく

 

『おぅ!なんて幸せなんだ君たちは、

あの感動を、これから味わえるというのかい?』

 

 

先生!あと5年働けば定年なんだから、

こんなところで、血圧上げて、倒れないでよ!

って言いたいくらいの、テンションだった。

 

教室は笑いに包まれたが、

僕は、

中2の時に、司馬遼太郎の『関ヶ原』全三巻を読破し、

読み終えた時、

『あぁ、読み終えちゃったよ!この歳で』

って感じ、感動したことを思い出していた。

 

 

さかのぼって、

小学校一年生の時に、母が買ってきた、シートン動物記の

『狼王ロボ』

推薦図書にでもなっていたのか、なぜこの本を選んだかは謎だが、

ただ単に買い与えられて、読めと言われて、

本も読んだことのない僕は、

それ以来、大の本嫌いになった。

 

4年生の時に、シュバイツァーの伝記の感想文を書く羽目になり、

嫌々ながら書いたものの、

感想文とは、感想を書く事であり、あらすじを書く事ではないと、

ごくごく当たり前のことを、改めて教わり、

本当に本当に、本が嫌いになった。

 

中学に上がり、少しは日本語が使えるようになってきた頃、

神奈川の短大で一人暮らしをしている、姉の部屋で、

その夜、新潮文庫の綺麗なうす緑の背表紙をした、

一冊一冊が薄めの本を見つけた。

 

星新一って書いていある。作家の名前だろう。知らない。

 

めくってみると、なんと、

一話が4、5ページだ。

なんだこれ?

興味を持って、1冊部屋に持ち帰り、

読み始めてみた。

 

そのうす緑色の綺麗な背表紙をした本を、読み終えたとき

朝になっていた。

なにか、全く違う世界を見つけたような気がした。

勉強でもない、スポーツでもない、テレビの漫才でもドラマでも映画でもない。

 

何かを。

確かに見つけた。

 

それから、姉の本棚にあった、数冊の星新一の著書を、

貪るように読み漁り、

本屋に行く楽しみを知った。

そして、SFつながりで、

僕は、筒井康隆ワールドにはまっていった。

 

たくさんの本を読むようになり、

 

 

そして、関ヶ原に出会う。

 

 

高橋先生に戻る、

・・・・ドストエフスキーか、

読んでみるか?

有名な、『罪と罰』の文庫を買って帰り、

読み始めたら、

数ページで、降参。

難しくて読めなかった。

そんな思い出がある。

 

 

いま、『不毛地帯』を読み終えて、

感じるのは、

読み終えちゃったな

ということ。

 

しのごの言わずに、終わっちゃったと感じる。

 

 

高橋先生はいろんなことを教えてくれた。

太宰治の死のちょっと前に会ったこと、

ある作家が、新潟に行って方言を調べた時の、大ウケの話、

志賀直哉の城崎にての話・・・

今でも覚えてる。

 

読書、日本語の大切さを教えてくれた。

 

そして、

中2の時の、教育実習の可愛かった近藤先生。

2週間いろいろ教えてくれて、

別れの時に、こう言った言葉が忘れられない。

感極まって、大粒の涙を流しながら、

『たくさんたくさん、本を読んでください』

 

この言葉も、僕の心と記憶に深く突き刺さってる。

 

 

こういった、恩師の言葉を守って、

こうして、『不毛地帯』に出会えたのかもしれない。

 

高橋先生も近藤先生も、こういう感動を知っていたのだろう。

 

今思う、

 

『本は、いろいろなことを教えてくれる』

 

 

 

 

 読書、

 

こんなに素晴らしく、安上がりな趣味は他にない。

 

 

このような素敵な本に出会えるから、読書はやめられない。

 

 

 

不毛地帯』、『白い巨塔』に肩を並べる山崎豊子の傑作です。

 

 

 

 

 

 

 

続く                             2017.1.24

『不毛地帯』 第4巻 山崎豊子

 

 

1月16日から読み始めた『不毛地帯』も第4巻読了。

 

二日に1冊のハイペース。しかも、1冊平均600ページ。

 

 

面白いことこの上ない。

寝る時間を惜しんでの読書。  

 

 

・・・幸せ。

 

 

しかし、いろいろ感ずることもある。

 

自分は短期間に読んでいるので問題ないけれど、

いかに面白いとは言え、

平成の29年のこの時代にしては、

意外と、

あくまで意外と、

淡々と人間ドラマが進んでいくため、

(今のドラマや小説のように、すぐに殺人事件が起こったりしない)

時間をかけて読むとすると、

専門知識、専門用語など多く、

読み始めるたびに、

多少遡らなければならなく、

億劫になってしまうかもしれない。

 

面白いから、そんなことないのかな?

 

 

 

第4巻で気づいたことは、

 

 

不毛地帯 第4巻 (新潮文庫 や 5-43)

 

 

主人公の隠岐正が、何ページにも渡り名前さえ出てこないことがあったこと。

今まではなかったように感じます。

それだけ、ほかのキャラクターが育ってきたということか?

 

 

 

そして疑問も、

 

近畿商事、否、商社という企業は、どれだけの

交際費、接待費を使っているのか?

作品では、さもありなんですが、

料亭で一席設けたら、何万円、

芸者絡みなら、何十万円・・・・・

成功の暁には、それだけでかいカネが動くってことか?

 

そもそも合併の成功させたら、

仲介手数料を貰うんでしょうか?

 

失敗したら、なんにも出ないってこと?

 

 

 

 

あと、東京商事の鮫島は、本当は10人くらいいる?

どこにでも出てくるよね。

ドラマでの遠藤憲一さんが頭から離れません。

 だって、外国での国際線のロビーで、

そんなに出くわすかなぁ?

銀座のバーで、しょっちゅう会うのは理解できます。

 

エンケンさん10人もいるの?  商社だしね。

 

 

 

千里は、竹内結子さんのイメージで読んでます。

ドラマでの小雪の顔が、どうしても能面のようで苦手だから。

 

 

唐沢寿明演じた隠岐正は、

僕の脳内で、松重豊に置き換わってしまい。

時々、自分で読んでいて、笑ってしまいます。

「不毛地帯」の画像検索結果 

僕にとっての主人公 隠岐 正 演じる 怪優 松重豊さん

 

 

 

あと600ページになってしまいました。

いわゆる、『不毛地帯』ロスにならないといいけど。

 

 

今日も睡眠不足。

 

 

 

 

続く                           2017.1.22                        

 

 

 

不毛地帯 第3巻 山崎豊子

お祝いせずにはいられない!

 

祝! 和合

 

正と千里

 

ちゃんと、描写しろい!って言いたくなるほど、

二人の関係に発展なかったが、ようやくニューヨークの壱岐の自宅で、

結ばれた。

骨太作家も、そっちの描写は苦手なのか、さらっとしてましたね。

 

唯一のロマンスだから、もっとしっかり書いてね!って感じ。

 

 

不毛地帯 第3巻 (新潮文庫 や 5-42)
 
 

社内改革を押し勧めつつ、フォークと千代田自動車との合併に乗り出すも、

副社長との確執で悩んでいるところへ持ってきて、

 

正妻佳子の突然の死。

 

なぜこうも、死が突然人生を脅かすようにやってくるのか?

 

死とはそういう物とでも言っているように、やってくる。

 

そして、ニューヨーク転勤。

 

 

そして2年のち、結ばれる二人。

 

正妻の死を持って、婚約解消って設定もすごいなぁ。

 

女ってすごい。

 

フォークと千代田自動車との合併話の途中で、

 

倒れる副社長。

 

途中巻だけあって、いろいろなことが、どっちつかず。

 

会社の方針、

 

フォークと千代田自動車との合併、

 

鮫島との対決、

 

千里との関係、

 

副社長との確執・・・・・

 

後2巻で解決しちゃうのだろうか?

 

 

あぁ、残すところ、あと2巻のみになってしまった。

 

 

 

 

 

続く                    2017.1.21

 

 

 

それにしても、読者の目を引きつけて離さない筆には、

素晴らしいという他ない。

 

 

『不毛地帯』 第2巻 山崎豊子

 

 

何故か、松重豊さんが頭から離れません。

 

不毛地帯

 

 

不毛地帯』 でのテレビドラマ版のFAXでの印象深いシーンは、

読み進めていくと、コピーと勘違いであったことが判明。

それを機に、

今まで、唐沢寿明のイメージだったのに、

急に、松重豊さんが脳内で動き始めた。

 

「松重豊 不毛地帯」の画像検索結果

 

笑える。

松重豊さんが、千里と京都で逢って、照れている。

なんて微笑ましくってたまらない。

ちなみに、松重豊は俳優名(本名)、千里は小説上の役名

 

 

 

第二巻も、グイグイ引き込まれて読んでしまいます。

すったもんだしながら、

最後は結構すんなりと次期主力戦闘機の入札に勝ち、

常務取締役に昇進し、東京に転勤。

中東問題が浮上し、スエズ運河の閉鎖及び

アラブイスラエル戦争をいち早く予測し、

近畿商事に莫大な利益をもたらした。

 

不毛地帯 第2巻 (新潮文庫 や 5-41)

 

次期主力戦闘機の戦いで、5巻まで続くものと思っていたが、

あっさりと、次の問題が出てきた。

そうか、『不毛地帯』は隠岐正の生涯の物語なんですね。

スーパーマン隠岐正の戦いの歴史なんだ。

 

防衛庁の構造や、上下関係が描写されるも

理解とは程遠い感じで読み進む、

 

また、中東情勢やパナマ運河を取り巻く、

各国の思惑や入り乱れた情報。

これもまた、理解に遠い状況で読み進める。

 

 

しかしながら、状況把握力が低い僕でも、

それなりに理解しながら、

非常に楽しむことが出来る。

 

理解するに越したことはないけれど、

描かれているのは、人間ドラマなので、

作者の思いは読者にしっかりと伝わってっくる。

 

 

男性でもかけないような、男性っぽい作風で、

女性が書いていることは完全に忘れ去られている。

 

2巻最後で、

また起こるであろう、対外的な火の粉とは別に、

副社長との確執も、どうなっていくか楽しみである。

 

また、唯一のロマンスか?

千里との関係も目が離せない。

 

 ちょっと気になるのは、

シベリアからの帰還。や

次期主力戦闘機の最終入札。

と二つの山場に関して、あれだけ盛り上げておきながら、

結構、あっさり解決してしまうこと。

次のテーマ(戦い)に、移行しやすくするための技なのでしょうか?

 

まぁ、次の戦いに期待します。

 

 WS000208.jpg

 

 

 

悲しいかな、

あと残り3巻になってしまいました。

 

 

 

 

 

続く                              2017.1.19

 

 

 

 

注:松重豊さんの画像は、『ブタウマのトラウマ』さんから借用しております。

 ブログ内に、画像の取り扱い注意がなく、ここに借用の件、記します。

   ありがとうございます。

 

『不毛地帯』 第1巻 山崎豊子

白い巨塔』以来の山崎豊子作品。

 

感動は約束されているものの、

書く作品書く作品、どれも全5巻などと、

大長編のため、読み始めるには、

 

度胸と時間と体力が必要。

 

以前のフジテレビ唐沢寿明主演のドラマを見ていたので、

大体のイメージは知っている。(つもり)

ドラマのイメージは、

 

シベリア抑留での過酷な重労働

松重豊の演技(FAXのシーンが、ものすごい印象に残ってる)

③飛行機のこと

こんな感じ。視聴率あまり良くなかったらしいですね。

いいドラマ作品だったと思います。

 

小説の本作品は、

 

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))
 
 

1巻として、

大本営参謀時代、

シベリア抑留時代

近畿商事時代

の3時代を、交錯させている。

 

大本営参謀時代は、軍の役職が盛んに出てきて、

非常に読み進めづらい。時間がかかる。

東京裁判が出てきたのにはびっくりした。

 

シベリア抑留時代は、やはり辛い、負の時代なので

読んでいて辛い。でも、面白い。

シベリア民主主義のくだりは、苦手。

これだけ作者が苦しめておいて、シベリアからの帰国の

エピソードが、さっぱりしていたので、たまげた。

 

近畿商事に関しては、綿糸相場の実態が詳しく描写されるが、

勉強したこともなく、経験ももちろんないので、わかりづらい。

がしかし、楽しく読ませてくれます。

 

自分の意志ではどうにもならない、

時代に翻弄される主人公を描いています。

 

この大前提の前に、

 

もがき苦しむ主人公の壱岐正。

 

山崎豊子が太い筆致で、

一筆書きのように、

作品に魂を、吹き込んでいます。

 

どこが良いとかどこが楽しいとかじゃなくて、

 

こればっかりは、読まないと味わえません。

 

全てにリアルさを感じるということが、

作者特有の、『綿密な取材』なのだろう。

 

白い巨塔では、専門医に質問できるくらい医学を勉強したそうだ。

不毛地帯では、隠岐正のモデルと称される

伊藤忠商事元会長の瀬島龍三氏に取材を申し込むも

再三再四断られたそうだ。

しかし、山﨑の根気に負けて、

100時間にも及ぶインタビューを行ったそうである。

 

 

作家魂ここにあり

 

 

すばらしい。

 

 

 

 

 

 

 

今から、読み終えた時の感動と虚脱感が予想される。

この感動も、あと4巻残すのみ。

 

 

 

 

続く                             2017.1.18

『小太郎の左腕』 和田 竜

 

あっぱれ!

 

あっぱれ!

 

いやぁ!

 あっぱれじゃ!!

 

ここまで楽しませてくれたら、

文句ない!!

 

軽いという人は言えばいい。

 

しかし、人をしっかり描くことで、

作風は軽めではあるが、(サクサク読めるという点に関して)

 

人、男、誇り、けじめ・・・

 

などと、根底に有るテーマは、奥深い。

 

なおかつ、しっかり伝わってきます。

 

こういう作品が、時代・歴史小説を盛り上げて行って

参入壁が高いと言われる歴史小説の書き手が、

増えて行ってくれたらいいなぁ!!!

 

小太郎の左腕 (小学館文庫 わ 10-3)

小太郎の左腕
和田竜

 

なんたって、

 

主人公は『半右衛門』です。

小太郎ではありません。←きっぱり

 

いくら、戦国の世の武士といってもこんなに男らしく賢い男も少ないでしょう。

 

女性が読んだら、イチコロです。

 

そこのツジツマを合わせるために、たまに、作者が出てきて、

その頃の男というのは・・・・・

と、サラっと解釈をたれます。別に嫌いじゃないです。

 

 

今の世の中は、

 

言葉で言ってもわからない!ということがあまりに多い。

 

言わなくても察しろ!!なんて無理。

 

この時代の男たちは、

 

『言わずもがな』

 

で、会話したのかもしれない。

 

よく『男の背中』と言いますが、

 

語らずに、体現せよということか!

 

 

ほぼ、男性だけで話が進められます。

(重要な女性が一人だけいますけど)

 

全ての、男が魅力的。

 

悪役でさえも魅力的。

 

男を書かせたら、当代随一ですね。

 

 

 いやぁ、傑作!傑作!

 

 

 

まだ読んでない、村上海賊 期待しちゃいます!!

 

 

 

 

2017.1.16                        続く

 

 

 

 

 

『きことわ』 朝吹真理子

なぜこの本を手にとったかというと、

 

2015年将棋の名人戦

羽生名人3勝、行方挑戦者1勝 第73期将棋名人戦七番勝負第4局

朝日新聞記事へ朝吹真理子さんの寄稿があり、

羽生棋士に対する描写に痛く感動し、

その記事の切り抜きを、未だにトイレに貼ってるくらい

感銘を受けた文章だったから。

 

なのです。

 

けっして、朝吹真理子さんが可愛いからではありません。←ちょっとはある

 

 

本作は、

なんとも、水彩画で、尚且つ印象派で、

心にトゲの立たない描写、

ふんわりとした時の流れ、

逗子や葉山などとイメージの良い土地で、

登場人物も、面白いように限定され、

夢かうつつかわからないようなシーンが、永遠に続く。

 

このまま全十巻くらいまで引っ張れるんじゃないのかという感じ。

 

作中、心臓疾患で亡くなった母春子のことに関しても、

読者として何の感情もわかない。

ドキドキもワクワクもない。 

起承転結すら危なっかしい。

 

 

 

純文学の定義ってなんだろう?

 

 

(通俗文学と区別して)純粋な芸術性を目的として創作される文芸作品。

 

こんなことが書いてありました。

 

通俗文学って・・・・すごい言われ方だな、しかし。

ミステリーはそうだよね。

現実社会では、ありえないことが普通に作品として成り立つから。

通俗文学というより、娯楽文学とか、大衆文学とも言うのかな。

ってことは、歴史モノは、そこに入らないな。

だから、歴史小説というジャンルがあるのだろう。

 

たいして、純文学。

たしかに、『きことわ』題名からして、純文学っぽい。

主人公が、貴子と永遠子だから・・・・きことわ

なんとも芸術だ。  ←半分馬鹿にしてる

 

そもそも、タイトルを、

『貴子と永遠子』にした瞬間、通俗文学になる恐れがある。

 

 

 

きことわ (新潮文庫)
きことわ
朝吹真理子
 
 

 

確かに、作中ありえないことは起きないし、

文章や表現は果てしなく上品で綺麗。

 

 

 

だから純文学。

 

 

かと言って、深い感動もない。

 

 

 

ベートーヴェンを演奏する小澤征爾のようだ。

さらっと綺麗で、オーケストラは超一流で文句ない。

でも、裃(かみしも)脱いでもがくとか、汗水たらして、奮闘するとかない。

カラヤンもそうだった。

 

たいして、フルトヴェングラーとか、オーケストラが合ってないことなんて

しょっちゅう。

第九の最後なんて、ハチャメチャ。でも感動する。 

いま日本で、それに近い感動経験をさせてくれるのは、

小林研一郎くらいのものか。

ハンヌ・リントゥと諏訪内晶子もいた! 

 

 

 

善し悪しでなく、

 

好き嫌い  なのだ。

 

自分はそういうのが好き!  ってただそれだけ。

 

 

 

でも、羽生名人を描写した文章が未だに忘れられない。

魂に呼びかけてくれるような作品をこの人は書ける気がする。

 

 

 

 

 

読後感は悪くないし、腹も立たない、

こういう雰囲気を持った、ゆったりした作品です。

 

と、そういうこと。

 

 

続く                         2017.1.14

 

『超高速!参勤交代』 土橋章宏

実は、相当な傑作です。

 

軽いノリの映画化作品や、

超高速!参勤交代』という輪をかけてノリの軽いタイトルで、

得していることと損していることがあるのでは無いかと思います。

 

得してるのは、もともと脚本として城戸賞を取ってますので、

作品として優れているし、

その映画化により何よりも認知度が高いということ。

映画の続編もありますしね。

 

損してるのは、作品的に、結構真面目に書き上げているのに、

イメージから来る軽さに負けてしまってやしないかということ。

 

僕も、軽く読み始めたのですが、

読んでる最中に、山本周五郎の傑作『樅ノ木は残った』を連想しました。

 

それってすごいよな。

 

伊達安芸、酒井雅楽頭、原田甲斐だぜ!おい!

 

何しろ、人物描写が深く、共感できる点が、素晴らしいです。

 

 

一般的に主人公だと思われる、当主政熱内藤 政醇(まさあつ)。

 

真の主人公、雲隠段蔵。

 

経理部長こと城代家老、相馬兼続。

 

そして、個性豊かな家臣たち。

 

登場場面は少ないものの、非常に大切な役目のお咲。

 

 

そして、悪の権化、松平信祝(のぶとき)

 

段蔵の敵役であったり、北の内藤の殿様だったり、伊達の殿様や、

妹の琴、最期に、話をグッと高尚にしてくれる将軍徳川吉宗

 

 

ひとりひとりに、深く愛情もって書いてくれているおかげで、

読む側としても、他人事ではない感じになります。

 

領主、当主、殿様が、領民と仲良く敬われてるっていう設定は、

読んでてほろっとさせる、大事な薬なんだろうな。

 

流石に段蔵が、死んでしまった時には、一瞬『?』となりました。

主人公だと思っていたので、忍者だし、生き返るかなと思いました。

何しろ、忍者段蔵の心の変遷の描写には感動しました。

大切な役を、さっと殺してしまうのは、脚本家として一流なのでしょう。

 

 

それがあってか、お咲が、なんとか生き延びて、

幸せに暮らしただろう後日談には、心底ほっとしました。

 

超高速! 参勤交代 (講談社文庫)
超高速! 参勤交代
土橋章宏

 

 

仲間って?

友情って?

やさしさって?

ふるさとって?

 

 

人生で大切な、普遍的な問いに作者は、真剣に筆を割いてくれました。

そういう意味では、先日読んだ、『さぶ』に通じるものがあります。

 

 

 

盛り上がりに盛り上がった、最後の決戦途中で、

上手に物語を締めくくってくれたら、いいなぁと思いながら読んでましたが、

 

六日目をあっさり短いページで、徳川吉宗との絡みで、ウルッとさせ、

4ページにも満たない終章が蛇足になるのだけは勘弁してよ!

 

と読みすすめると、

 

さらっとだけれども、

作者の愛のいっぱい詰まったラスト4ページにしてくれました。

 

読後感最高!!!

 

またまた、大好きな本が増えました。

リターンズも面白いといいけど、、、

 

 

 

 

 

 

 

続く                            2017.1.13

 

 

 

追伸

もう少し、時代考証して、タイトルをもっともらしいものに変えたら、

不朽の名作に仲間入りするのではないでしょうか。

藤沢周平ではないけど『密謀』とかね。

それじゃぁ、儲からないんだろうな。

そのくらい、楽しく、感動させていただきました。合掌。